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統合失調症は、約100 人に1 人がかかるといわれており、決して珍しい病気ではありません。
10代から40歳ぐらいまでに発病しやすい病気ですが、ご高齢になってから発病される方もいます。
症状としては、幻聴や妄想、知覚の過敏、それらに伴う強い不安・恐怖、意欲の低下、認知機能の低下、ひきこもりなどがあります。
もしかしたら自分の状態はおかしいかもしれないと振り返ることは難しい病気でもあります。
原因は脳の機能にあると考えられていますが、詳しい原因はわかっておりません。治療は、お薬やリハビリテーションなどが中心となります。
【どんな人がなるの?】
発生率は約 1 %と言われています。
発病の年齢ですが、15〜35歳までに発病される方が多く、25歳以下の方が約50%を占めます。
10歳以下、40歳以上で発病される方は多くはありませんが、ご高齢になられてから発病することもあります。
男女差はあまりありませんが、最近の研究では男性がやや多いと言われています。
【原因は何?】
心の病気ではなく、脳神経の病気、具体的には、脳の中にある神経伝達物質(ドーパミンなど)を中心とした脳機能の障害と考えられています。
ドーパミンの作用が過剰になると、幻聴や妄想、知覚の過敏さなどの症状が出現すると言われています。
統合失調症が発病してしまう原因については、今のところ不明ですが、現在の研究では、遺伝的要因と環境的要因が組み合わさって発症することが示唆されています。
統合失調症になりやすい方に、ストレスが加わって、発病されると考えられています。
【発病のリスクを高める要因】
●遺伝
親御さんが統合失調症の患者さんであった場合、そのお子さんが統合失調症を発病してしまう確率は5〜6%との報告があります。
●母胎の状態
お母さんの胎内にいたときのお母さんの体調も重要との報告があります。
※ 妊娠中のお母さんの栄養不足は、そのお子さんが統合失調症を発病するリスクが上がるとの報告があります。
※ 妊娠中のお母さんがインフルエンザに感染すると、そのお子さんが統合失調症を発病するリスクが上がるとの報告があります。
※ 妊娠中から出産時にかけて、お母さんの貧血、妊娠中毒、切迫早産、出産時の出血などの合併症があると、そのお子さんが統合失調症を発病するリスクが上がるとの報告があります。
※ 妊娠時のお父さんの年齢が上がるにつれて、そのお子さんの統合失調症のリスクは上がり、お父さんが50歳以上になると、そのリスクは2.1倍になる、2.9倍になる、との報告があります。
●トキソプラズマ感染
トキソプラズマは猫のふんや生の肉を介して感染する寄生虫です。世界人口の3割が感染しているとも言われています。女性の統合失調症患者さんでは、トキソプラズマ抗体が一般の人よりも陽性率が高いとの報告、トキソプラズマの感染があると統合失調症の発症リスクが2.7倍になるとの報告、症状が慢性化する統合失調症にはトキソプラズマ抗体の陽性者が多かったとの報告、幼少時に猫を飼育していた経歴は、のちの統合失調症発症リスクを高めているとの報告などがあります。
【経過】
典型的には、発病は10代後半から20代前半で、ストレス(進学・就職・独立・結婚などの人生の岐路)になるような出来事があり、もともと病気になられやすい方に発病します。
発病後、経過が進むと、妄想や幻聴などの症状は少しずつ減っていく方が多いです。一方で、意欲の低下や、感情があまり出てこないなど症状が強まる方もいます。ただし、それらの症状や程度については、その方その方で、かなりの違いがあります。
【予後】
薬物療法の進歩により、その経過は良くなってきています。寛解状態(病気自体は治っていませんが、お薬を飲むことで病気の症状が出ない状態)になったり、軽度の障害を残すのみの方は50%ほど、重度の障害を残す場合は10〜20%ほどと言われています。
多くの方が外来通院で治療が可能です。ただし、ストレスなどで再発を起こしやすいことがわかっていますので、再発予防を心がけることが大切です。
【統合失調症の症状】
人によってさまざまですが、大きく3つあります。
◎ 陽性症状
幻覚(主に幻聴)・妄想・音や光に過敏になる・強い不安や恐怖・興奮・イライラ・まとまらない会話や行動・独り言など
◎ 陰性症状
意欲の低下・気力が湧かない・表情が乏しくなる・無関心・引きこもり・考える能力の低下・会話の量が減る・身だしなみに無頓着になってしまうなど
◎ 認知機能障害
記憶力・思考の能力・計算能力・学習能力・注意力・集中力・判断能力・計画性・問題解決能力など、知的能力の障害
【幻聴】
統合失調症で特に多い幻覚は、幻聴で、周りに誰もいないのに、声や音などが聴こえてきたりします。
また、日常的な音、例えば、換気扇の音、ドライヤーの音、冷蔵庫の音に混じって悪口が聞こえたり、その雑音自体が悪口に聞こえたりすることもあります。
幻聴の内容のほとんどは非難、中傷、嘲笑、脅迫など不愉快な内容です。
例えば、「お前は馬鹿だ」「おまえなんか死んでしまえ!」などと本人を非難・批判する内容、「あっちへ行け」などと命令してくる内容、「今トイレに入りました」など本人の行動を監視しているような内容のものが代表的です。
また、自分が思っていることや、考えていることが、声となって聞こえてくることもあります。これを考想化声、思考化声と言います。例えば、腹がへった〜と思うと、「腹へった〜」と遠くから声が聞こえたりします。
幻聴は普通の声のように聞こえてくるので、実際の声と区別できないことが多いです。
また、直接、声が頭の中に聞こえてくるようなこともあれば、普通では聞こえないはずの遠いところから(例えば何百メートルも遠いところから)聞こえてくること、声ではなく、テレパシーや電波などで伝わってくることもあります。
幻聴の内容の一語一語ははっきりしないのにもかかわらず、意味が一挙に理解できることもあります。
幻聴に聞きいって、笑ってしまったり、幻聴と対話して、周りからは独り言を言っているように見えることもあります。
(例)
幻聴:「お前は本当にバカだ。」
本人:「うるさい。だまって。」
幻聴:「誰がだまるか。」
→ 周りからは独り言のように聞こえます
幻聴は,直接話しかけてきたり、噂をしたり、自分の行為をいちいち批判してくるので、無関心ではいられず、時に、声の命令に従うまいと思っても従ってしまいます。
統合失調症の方が、突然、深刻な自殺を図ってしまうことがありますが、その中で多いのが、例えば、「ここから飛び降りないと、殺すぞ!」「死なないと、家族を殺すぞ!」などの幻聴に従ってしまった時です。
【体感幻覚】
臓器に関する幻覚を体感幻覚と言います。「体に電流や電波を浴びせられる」などがあります。
【妄想】
どう考えてもあり得ないことを、頑なに信じてしまうことを「妄想」と言います。例えば、「誰かが自分の命を狙っている」などの被害妄想です。それには絶対の確信と、とても大きな不安が伴います。
そして、周りがどんなに訂正しようとしても受け入れられません。親しい人が、丁寧に説明したり、そんなことは有り得ないと繰り返し説明したりしても、本人は納得しません。それは、本人には、実際そう感じるからです。
【主な妄想の種類】
注察妄想:周りから自分が見られていると確信する妄想です。誰でも街中で、知らない人と時々視線が合ってしまうことはよくあります。それに対して、普通は、気にとめることはありません。しかし患者さんは、たまたま偶然に視線が合ったことに対して、何らかの意味があるように思え、とても怖くなります。例えば、「外を歩くと、みんなが自分のことをジロジロと見てくる」「街中で自分のことを監視している」「家の中にいても盗撮されている」などと確信してしまいます。
関係妄想:自分とは関係のない周りでの出来事が、自分と関係があると確信してしまう妄想です。例えば、「近所の人が咳をしたのは、自分への合図だ」「皆が自分のことを噂している」「テレビやインターネットのニュースで、自分のことが出ていた」「自分だけしか知らないことを、皆が知っている。家の中を盗聴されているに違いない。」などになります。
被害妄想:周りから自分が危害を加えられると確信する妄想です。周囲の何気ない視線やしぐさ、態度などに悪意や敵意を感じ、それに対して怯えたり、憤ったりしてしまいます。例えば、「自分の命が狙われている」「誰かが自分に危害を加えてくる」「嫌がらせをされる」などと確信してしまいます。
被毒妄想:「食べ物に毒を入れられた」などと確信してしまう妄想です。
追跡妄想:「後ろを歩いている人が、自分の跡をつけている」「警察が自分のことを尾行している」 などと確信してしまう妄想です。
恋愛妄想:実際にはほとんど接点のないにもかかわらず、自分とその人が恋愛関係にあると確信してしまう妄想です。当初は、恋愛関係にあると感じて、希望や嬉しさがありますが、実際には現実が伴わないため、失望を感じたり、辛くなることがあります。
【思考伝播・考想伝播】
自分の考えが周りの人や世間にわかってしまったり、伝わって知られてしまうというものです。「なぜかよく分からないけど、自分の思っていることが、全部周りに筒抜けなんです」などと、表現されます。
【思考吹入・考想吹入】
誰かの考えを、自分の頭の中に吹き込まれていると感じる症状のことを言います。
【思考奪取・考想奪取】
自分の頭の中にあった考えを、誰かに抜き取られてしまったと感じる症状のことを言います。
【作為体験】
自分の意思に反して、誰かに考えや体を操られてしまうと感じる症状です。
【会話や行動の障害】
病気の症状が活発なときや、病状が進行してしまったときには、考えや言動、行動が混乱して、まとまりのある言動や行動がとれなくなってしまうことがよくあります。
この症状が重くなると、周りから見ると、患者さんの言動や行動は支離滅裂なものに見えてしまいます。
例えば、患者さんの言動を理解しようとしても、なかなか理解することができず、それに対して質問しても、話がどんどんそれてしまい、ちゃんとした答えが返ってこないということもよくあります。
【意欲の障害】
気力が湧かなくなり、横になって寝てしまう時間が長くなります。
初めてこの病気になった人の7割の方に、意欲が低下するという症状が生じます。また、3割の方においては、意欲の低下が持続してしまいます。
意欲が低下すると、例えば、なかなか頭が回転しなくなり、考えること自体が難しくなったり、会話の量が減ってしまったり、会話をしてもその話題と内容が乏しくなってしまいます。
行動についても、意欲や行動力は落ちてしまい、仕事や家事だけでなく、楽しみである趣味でさえ、やる気力が湧かなかったりしてしまいます。あまり人と話そうだとか、接しようだとか、外出しようという気持ちにもならなくなります。そのため、自宅に閉じこもりがちになってしまう方もいます。
意欲の低下が強いと、整理整頓ができなくなったり、洗面や入浴が億劫になって、清潔を保てなくなる方もいます。外見や身だしなみを気にしなくなってしまう方もいます。
普通であれば、何もしないと退屈で、苦痛に感じることも多いですが、あまり苦痛を感じずに、何もしない状態で日々を過ごしてしまう方もいます。
しかし、このように、何もしない、自閉的な生活が続いた場合、元来持っていた能力が落ちてしまうため、リハビリが大切になります。
【感情の障害】
この病気が進行してしまうと、感情が出にくくなるという症状が出てしまう方も少なくありません。普通であれば、嬉しいとか楽しいとか、悲しいとか悔しいと思うような場面でも、そのような感情が湧きづらくなります。
周りから見ても、患者さんの感情表現が乏しくなるため、患者さんの表情が以前よりも分かりにくくなったり、硬くなってしまったと感じたりすることもあります。
【認知機能障害】
記憶力の低下、学習能力の低下、実行機能の障害、感覚情報処理能力の障害などが認められる方もいます。
具体的には、新しいことをなかなか覚えられない。授業についていけない。複数の仕事を同時に頼まれると、何から始めて良いか分からない。手順や段取りを決めて、仕事や家事を進められない。方針を柔軟に変更できない。必要なものだけに注意を集中できない。人ごみの中では、周囲の騒音も拾ってしまうため、会話に集中しにくくなるなどがあります。
これら認知機能障害については、陰性症状と同じように、お薬ではあまり改善されず、統合失調の患者さんの生きづらさにつながるとともに、就労の障壁にもなります。
薬物療法や、作業療法、SST(社会生活技能訓練)、デイケア、作業所などのリハビリを地道に続けていくと、ゆっくりとですが、改善していきます。
【病識の障害】
患者さんは、もしかしたら自分の状態はおかしいかもしれないと振り返られること(病識を持つと言います)は、難しい病気でもあります。
幻聴や妄想が活発にある時期は、幻聴や妄想と現実との区別がつかないため、それらが病気の症状であると、周りからいくら言われても、なかなかそうは思えません。
しかし、治療が進み、病状が改善すると、もしかしたら、自分は病気であったかもしれないと理解できる部分が増えていきます。
【統合失調症の治療について】
脳の病気であるため、薬物療法が大切になります。特に、幻覚や妄想が強い時期には、薬物療法をきちんと行うことが不可欠になります。
そして、お薬には再発を予防する効果もあるため、幻覚や妄想がおさまってからも、お薬を続けることが大切になります。
また統合失調症では、意欲の低下などのために、日常生活に支障をきたしてしまうことが良くあります。そのために、リハビリテーションも大切になります。
【統合失調症の薬物療法】
抗精神病薬というお薬を少量から開始します。幻聴や妄想に対する効果を見ながら、症状が良くなるまで増量していきます。明らかな効果が認められれば、継続します。
お薬を開始すると、半数ぐらいの方が2週間程度で改善傾向を示します。残りの半数の方も、さらに2週間待つと改善することが多いです。
その一方で、統合失調症患者さんの約20〜35%の方が、第一選択の抗精神病薬に反応しないと言われています(治療抵抗性統合失調症)。
患者さんがしっかりとお薬を内服しているにもかかわらず、お薬を数週間継続しても、十分な効果が得られない場合には、別の抗精神病薬への変更を検討します。
【お薬はいつまで続けるの?】
統合失調症は、完治しにくく、お薬をやめると、再発しやすい病気です。病気が治らなくても、お薬を飲むことによって、症状が落ち着いている状態(寛解状態)を目指します。
お薬を中断すると、短期的には、お薬を飲んでいる人と比べて5倍ほど再発率が上昇します。また、1〜2年間お薬を中断すると、ほとんどの患者さんがその1〜2年間の間に再発してしまいます。
再発をすればするほど、病気の症状は悪化して、治りにくくなります。そのため、お薬はやめずに継続していただくことを原則としています。
【主な内服薬】
●リスパダール・リスペリドン
1日量2mg、1日2回に分けて開始します。効果と副作用を見ながら、1日量2〜6mg、1日2回に分けて継続します(最大1日量12mgまで)。値段の安いジェネリック品があります。
幻覚や妄想に対して優れ、鎮静作用もあるため、幻聴や妄想、興奮の強い患者さんでは、優先順位の高いお薬の一つになります。
昔のお薬と比べて、薬剤性のパーキンソン症候群(手が小刻みに震えたり、体がこわばる、歩きにくくなる、表情が乏しくなるなど)は生じにくいお薬ですが、お薬の量が増えると薬剤性パーキンソン症状が出る方もいます。薬剤性のパーキンソン症候群が生じた場合には、副作用止めのお薬を飲んでいただいたり、別のお薬に変更したり、お薬を減らすことなどによって、この副作用は少なくなります。また、生理不順などの副作用もあります。
2週間ごとの注射になりますが、持効性注射製剤・持続性注射製剤(LAI)もあり、内服がなかなかできない患者さんでは、2週間に1回リスパダールのLAIを注射すると、2週間内服し続けたことと同じ効果があります。
●インヴェガ・パリペリドン
1回6mg、1日1回(朝食後)より開始します。効果や副作用を見ながら、1日量3〜12mg、1日1回(朝食後)を継続します。インヴェガは、先に発売されていたリスパダール・リスペリドンが改良され作られました。インヴェガは、リスパダール・リスペリドンと比べて、長く効き、また、鎮静効果も穏やかであり、比較的眠気の副作用は少ないお薬です。インヴェガは比較的新しいお薬であるため、値段の安いジェネリックは、現在のところありません。
内服することが不安定な方については、インヴェガには持効性注射製剤・持続性注射製剤(LAI)があります。インヴェガのLAIであるゼプリオンを4週間に1回注射すると、4週間効果が持続するため、インヴェガを4週間内服し続けたことと同じ効果があります。
●ジプレキサ・オランザピン
1回5〜10mg、1日1回より開始します(最大量は1日20mg)。幻覚や妄想に対して優れ、特に興奮をしずめる作用に優れているため、幻聴や妄想、興奮の強い患者さんでは、優先順位の高いお薬の一つになります。また、喫煙される方については、お薬の血中濃度が下がってしまうことが知られています(1日7本程度の喫煙で血中濃度が半減してしまうという報告、喫煙により血中濃度が非喫煙者の5分の1に低下してしまうという報告あり)。血糖値が上がりやすかったり、食欲増進、体重増加などの副作用があるため、定期的な血液検査が必要で、糖尿病の方にはお使いできないお薬でもあります。値段の安いジェネリック品があります。
●エビリファイ・アリピプラゾール
日本で開発されたお薬です。1回6〜12mg、1日1〜2回より開始。効果や副作用を見ながら、1日量6〜24mgを1日1〜2回に分けて継続します。陰性症状や認知機能障害に対する効果が高いとされています。体重増加や、眠気、薬剤性パーキンソン症状など、全般的に副作用が少ないお薬ですが、アカシジア(体がむずむずして落ち着いて座っていられない)という副作用は比較的多く認められます。値段の安いジェネリック品があります。
内服することが不安定な方については、持効性注射製剤・持続性注射製剤(LAI)があります。エビリファイのLAIを4週間に1回注射すると、4週間効果が持続するため、エビリファイ・アリピプラゾールを4週間内服し続けたこと同じ効果があります。
●レキサルティ
日本で開発されたお薬です。1回1mg、1日1回より開始し、効果や副作用を見ながら、5日目以降に1回2mg1日1回に増量して継続します。
レキサルティは、先に発売されていたエビリファイ・アリピプラゾールが改良されて作られました。エビリファイと比べて、より幻覚や妄想に効果があり、陰性症状や抑うつ症状・不安にも効果があるお薬です。また、体重増加や眠気、薬剤性パーキンソン症状などの副作用が少ないお薬でもあります。副作用が少なく、幻覚や妄想にも効果があるため、再発の予防も含め長く内服していくお薬としてはとても良いお薬です。レキサルティは比較的新しいお薬であるため、値段の安いジェネリックは、現在のところありません。
また、内服することが不安定な方については、エビリファイとレキサルティが似ているお薬であるため、エビリファイの持効性注射製剤・持続性注射製剤(LAI)に変更することを考えます。エビリファイのLAIを4週間に1回注射すると、4週間効果が持続するため、レキサルティを4週間内服し続けたこと似たような効果があります。
●セロクエル・クエチアピン
1回25mg、1日2〜3回より開始します。効果や副作用を見ながら、1日量150〜600mgを1日2〜3回に分けて、継続します(最大量は1日750mg)。幻覚や妄想に対しての効果は強くはありませんが、興奮を鎮める効果の高いお薬です。抗うつ効果もあります。血糖値が上がりやすかったり、食欲増進、体重増加などの副作用があるため、定期的な血液検査が必要で、糖尿病の方にはお使いできないお薬でもあります。値段の安いジェネリック品があります。
●ロナセン・ブロナンセリン
1日量8mgを1日2回に分けて開始します。効果や副作用を見ながら、1日量8〜24mgを継続します。幻覚や妄想を抑える作用は強いとされるお薬です。一方で、体重増加や眠気、ふらつきなどの副作用は少ないお薬です。空腹時に内服すると、吸収が大きく落ちてしまう薬であるため、食後に内服します。内服薬については値段の安いジェネリック品があります。
ロナセンには、内服薬だけではなく、テープ製剤があります(1日1回貼ります)。
●ルーラン・ペロスピロン
1回4mg、1日3回より開始し、効果や副作用を見ながら、1日量12mg〜48mgで継続します。陽性症状に加え、陰性症状にも良い効果が得られると考えられているお薬です。空腹時に内服すると、吸収が大きく落ちてしまう薬であるため、食後に内服します。体重増加や眠気などの副作用が少ないお薬です。値段の安いジェネリック品があります。
●シクレスト
舌下錠のお薬です。1日量10mgを1日2回に分けて開始します。効果や副作用を見ながら、1日量10〜20mgで継続します。幻覚や妄想だけではなく、認知機能障害や不安、抑うつなどにも効果が期待されているお薬です。体重増加などの副作用が少ないお薬です。シクレストは新しいお薬であるため、値段の安いジェネリックは、現在のところありません。
● ラツーダ
40mgを1日1回食後に内服します(最大量は80mg)。空腹時に内服すると、お薬の血中濃度が低くなるため、食後に内服します。
2020年に日本で発売が開始されたお薬です。不安や憂うつな気分にも効果があると言われています。体重増加や代謝異常(血糖やコレステロールが上昇する)、認知機能低下などの副作用は少ないとされています。
なお、イトラコナゾール、ミコナゾールなど抗真菌薬(水虫のお薬)や、抗生物質であるクラリスロマイシン(クラリシッド・クラリスなど)とは、ラツーダの血中濃度が非常に高くなってしまうため、併用できません。新しいお薬であるため、ジェネリック品はありません。
【持効性注射剤・持続性注射剤・LAI】
統合失調症を再発される患者様の中で多いのが、お薬の自己中断や、お薬の飲み忘れを長期間続けてしまった時です。
お薬の内服が不安定な方や、自分が病気であるとあまり認識がなく、お薬をあまり飲むことのできない方には、2〜4週間に1回お注射をすることで、内服薬を飲んだことと同じ効果のある持効性注射製剤・持続性注射製剤(LAI・デポ剤)をお勧めしています。LAIは、1回お注射をすると、2〜4週間、その効果が続きます。LAIには、下記のようなお薬があります。
●ゼプリオン
インヴェガのLAIとなります。4週間に1回お注射をします。
●ゼプリオンTRI
インヴェガのLAIとなります。12週間に1回お注射をします。ゼプリオンの4週間製剤と比べ、注射するのが12週間に1回ですみます。
●エビリファイ
エビリファイのLAIとなります。4週間に1回お注射をします。
●リスパダールコンスタ
リスパダールのLAIとなります。2週間に1回お注射をします。
●ハロマンス
ハロペリドール・セレネースのLAIとなります。4週間に1回お注射をします。
【リハビリテーション】
統合失調症では、意欲の低下や、感情が湧きあがってこない、引きこもりがちになってしまう、などの症状のために、日常生活に支障をきたしてしまうことが良くあります。そのために、リハビリテーションも大切になります。当院においても、病棟では作業療法、外来ではデイケアを行っております。
【入院治療について】
幻覚や妄想が強い方、お家で休むことが難しい方には、入院治療をお勧めしています。入院治療では、病状を日々観察することでき、薬物療法についても、細かく調整することができるため、外来治療よりも手厚い治療が可能です。
【ご家族が注意したほうが良いこと】
幻覚妄想が収まり、回復期に向かっている患者様では、陰性症状や認知機能障害が残っていることが少なくなくありません。そのため、いきなり以前と同じように学校生活や仕事、家事などをすることは困難です。ゆっくりと段階的にリハビリをしていくことが大切です。
家でも、一度に複数のことを頼まずに、一つずつ家事などをお願いする、やり方を分かりやすくシンプルに説明する、理解が難しければ繰り返し説明する、実際のやり方を見せる…など工夫をすると、患者さんは混乱することが少なくなり、できるようになっていきます。
また、陰性症状や認知機能障害のために、以前は楽にできたことも、疲労が溜まってしまうことも少なくありません。できなかったことができるようになったら、一緒になって喜んでください。
【再発のきっかけ】
統合失調症を発病して、1回のエピソードだけで済む方は、10%にも満たないと言われています。お薬を中断した場合、1年間で78%、2年間で96%が再発したとの報告もあります。また、再発のたびに6人に1人が、症状が残るようになってしまったとの報告もあります。そのため、多くの方が、再発予防のためにお薬を飲んでいただいています。
一方、統合失調症の再発するきっかけで多いのが、お薬の自己中断になります。特に、病気になって間もない頃は、自分が病気であるという認識(病識)を持てない方も多く、お薬を自己中断してしまう方も少なくありません。時に、家でも病院でも、「お薬はきちんと飲んでいます」と話しながら、実際にはお薬を飲んでいないこともあります。そのため、病状が悪化した場合には、お薬をしっかりと内服しているかを、ご家族に確かめていただくこともあります。
お薬の自己中断は、病気の再発につながりやすいこと、再発すればするほど、病気は治りにくくなること、また、病状悪化のために入院などになってしまう可能性について説明し、服薬を再開するよう説得していきます。
【統合失調症と食事について】
統合失調症の患者さんは、肥満になられてしまう方が多いと言われています(入院患者さんで約2割、外来患者さんで約5割)。高血圧や糖尿病、高脂血症などになられてしまう方も少なくありません。理由としては、過食や偏った食事、運動不足、服用しているお薬の影響などが関係していると考えられています。
当院では、患者様が糖尿病や高脂血症などに陥られないよう、定期的な採血(コレステロールや血糖など)をお勧めしています。また、体重の増加をきたしている患者様を対象に、栄養士による栄養指導を行っております。ご希望なさる患者様は主治医にお申し出ください。
また、大塚製薬さんが、統合失調症と肥満などについての情報をインターネット上で提供されています。「メタラボ 〜からだのみかた〜」https://metalabo.net/
というサイトですが、勉強になりますので、ぜひご覧になっていただければと思います。